カテゴリー別アーカイブ: story

B1_002 地下1階

奧まで行くと、業務用と思われる扉がある。
ICカードをかざすとロックが外れる電子音がしたので開ける。

真っ白な空間、横5m、縦2mくらいだろうか?が広がっており
エレベーターの扉が2つ、正面に広がっている。
奇妙なのは右側のエレベーターの扉が異常に大きい、ということだ。
横幅が2mくらいあるだろうか。

指定されたのは右側のエレベーターだったので下ボタンを押す。
エレベーターは28階にいる。

停止する度に音が鳴るのか、点灯する階数表示が止まるごとに
電子音が響いている。2分ほど待ってエレベーターの扉が開く。
予想に反して誰も乗っていない。

そして目の前の空間にあっけにとられた。
コンテナと言うと言い過ぎかも知れないが、少なくとも10トントラックの
荷台くらいの広さがある。
入り口が2mとして、奥行き6mくらいだろうか。あるいはもっとあるかもしれない。
少なくともこの空間があれば慎ましい家族が暮らしていけるくらいの広さだ。

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B1_001 地下1階

指定された建物は駅から7分くらいのところにあった。
総ガラス張りで、入り口には警備員が立っている。
自動ドアをくぐると大理石調の床、天井は15mくらいあるだろうか。
広い空間が広がっている。

空間の端にある受付まで歩いていくと、
3人の受付嬢がおりどの子に目を合わせれば良いのかよくわからなくなる。
距離が3mくらいになった時、向かって右手の受付嬢が軽く立ち上がり、
こちらへどうぞ、という身振りを無言で行う。

「コンファメーション・ナンバーをお願いいたします。」

59L2E032V

私は暗唱してきた番号を淀みなく口にした。
受付嬢は私の所属と名前を確認し、ICカードを手渡す。

こちらのカードで右手のゲートをくぐっていただき、
16階の受付で書類の提出をお願いいたします。
エレベーターは高層階用が左手奧、
もしくは右手奥に6基ずつございますのでそちらをご利用下さい。

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outo 2008 嘔吐 2008

猛烈な頭痛が私を襲い、耐えられなくなって会社を出たが
電車の中でさらに猛烈な吐き気に襲われ御茶ノ水駅で嘔吐した。
ぎりぎり歩ける状態で帰宅したものの、吐き気も頭痛も治まらず
結局夕飯に食べた魚のフリットを全て吐き出す。

吐く物が全て無くなり胃液が逆流している感覚があり、
もしかするとこの夕飯に食べた魚のフリットが傷んでいたとか
そういう可能性もあるな、と考える。デリケートなのだ。

基本的に疲労している。
先週末から微熱のような状態が続いている。
うがいして、そのままベッドに倒れ込む。まだ9時にもなっていない。

起きると猛烈な勢いでサーキュレーターがまわっており

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highway5 首都高5号線

highway5

会社に来た営業さんが話す。
あれね、あれでね、車の流れが変かわっちまいましたよ。ほんとに。
普段混んでない道が混んでてね

タンクローリーが横転し炎上、通行止めとなった首都高5号線。
マンションの1ブロック東側を走っている。

特に時間を気にしていなかったから営業さんが遅刻しようが
そうでなかろうが、差し支えはほぼ無い。

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Matt Hikkoc service 1 マット引っ越しサービス

川崎マットが市川に移動するということで、
川崎さんに引っ越しを申し込んだ。

あ、どうも川崎です。市川ですね?
あ、どうもどうも、市川です。はい。

表参道を出て、集合時間の13時に川崎に到着すると、
川崎の駅の発展ぶりに愕然とする。

川崎マットに電話すると、
あ、どうもどうも川崎ですとのこと。
西口の事らしい。言葉の使い方が
このあたりでは非常に難しくなっている。流動的である。

黒いハイエースでリアウイングに花子って
書いてあるしブォンブォン言ってるから
すぐわかりますんで。

確かにすぐ分かった。
私は周囲を確認し素早くドアを開けて後部座席に飛び乗ると

出せ

と一喝した。

ところが川崎マットは動揺していた。

プルックが、奴が、来ていないんす。

すかさずプルックに連絡を取ると

「蒲田だ。
 30秒で支度する。」

いやあの、既に遅刻だから
そこですごい速いぜ俺みたいな雰囲気出されてもあの?

と思わず私も動揺してしまった。
これでは計画が狂う。

仕方ない、meshiを買う

そう言って飛び出した私の前を黒い服の男がよぎる。
しかしそれは単なる見間違いであり、
焼きたてのパンを4つ選んだ私は
親子でパンを買いに来た2人づれの後ろにレジで並ぶ。

ブォオオオオ キュルキュルキュルキュル
と音が聞こえたと同時に白煙が上がっているのを見たのは
そのときで私はトレイを投げ出し店外に飛び出した

のと突っ込んできた小型トラックがパン屋のガラスを割ったのが同時だった。

つづく。

input output, output nothing 入力 出力

僕がその事に唐突に気づいたのは飛行機の中だった。
あるいはでも、これはもう前にも同じ事を書いた気もする。
でもまあいいや、と思う。

2冊の本を読み終えた僕の中には文章が渦巻いていて、
様々な女の子達の物語が浮かんでは消えていた。

それらがあまりに断片的で、でも何か形にされたがっているのを
感じ、結局日本時間AM2時に僕はいったんは触るつもりの無かった
ラップトップPCを、頭上の棚に入れたバックパックから取り出した。

いつもそうだ。いつも、書き始めると思い浮かんでいた
文章は僕の中からどこかに流れていってしまい、
代わりに今、タイプしているような全く新しい文章が生まれる。
しかしこれは仕方のないことで、
もう僕はこの現象に長く付き合っているので
躊躇無くタイプし続ける。

タイプしながら次の文章が生まれる。先を知っているのは
どちらかと言えば僕自身の指で、
頭ではない。

僕のブラインドタッチは我流で、両手共に三本の指しか使わない。
そのスピードは特に遅くもないが早くもない。
おそらく次の文章を探しながら書くのにはちょうど良いスピードで
タイプが続けられている。

話を元に戻そう。
長くに渡って僕がこのような意味のない文章を書き続けていた
理由に唐突に気づいたのは飛行機の中だった。

僕は色々な出来事の出力として、文章を書いている。
2冊の本を読み終えて文章を書かずにいられなくなったのは
おそらく僕の入力→容量部分がいっぱいになっているためだ。
僕は何らかの入力があった場合出力として文章を出し、
その結果僕自身には何かの切れ端みたいな物しか残さない。

記憶が全てにおいて曖昧で
何もかも覚えようとしないのも、
これで説明できてしまうのではないかとも思う。
しかしそれは言い訳であることもわかっている。

原材料に乏しい我が国は、
安価な原料を輸入して付加価値を持った商品にし、それを輸出します。
これを加工貿易と言います。
おそらくこういう話だったと思う。高度経済成長期における日本の
あり方、義務教育でさんざんすり込まれた文句だ。

あるいは僕の文章もこれに似ているかも知れない、と思う。
誰にとっても付加価値は無い、と言う点さえ除けば。

エミクロくんが一瞬目を覚まし、
あなた寝なさいよ
キーボードの音だって耳障りだし。

そう言ってまた眠りにつく。
なるべく音を立てないようにキーボードを打つうちに
エミクロくんの言葉で僕の思考は現実に引き戻される。

確かに意味のないことをしているな、と。

まあいいや。
ラップトップを閉じて僕も眠ることにする。
まだ夜明けには時間がある。

root 273 ルート273

その時私は滋賀と京都の県境だと思われるあたりを走っている
タクシーの中にいた。午前1時近かったと思う。
タクシーはマニュアルで、時折路面の状態と関係なく振動した。
運転手は初老の男で、考えている事が言葉として出てしまうようだった。

うむ、あれ、どこだっけ、確か、右に。
そうだ。うんうん。交差点、そうだ。よいしょと。

タクシーから見える風景は漆黒の闇で、
記憶には無いが恐らく田んぼだろう。
このようなタイプの闇は東京には存在しない。

運転手は相変わらず何かしゃべっていたが
その声は口の中で吸収されてしまい
聞き取ろうと思っても聞き取れないし
第一聞き取っても意味をなさない。

急に右折してタクシーが減速して走り出したのは
武家屋敷のような街並みの曲がりくねった道だった。

ヘッドライトに照らされて、生け垣やら蔵やら、
白い壁、瓦屋根、立派な門や松が見える。
そう言えばこういった家も、少なくとも僕の住んでいる
地域にはほぼ存在しない。

物珍しさに家々を見ていると、バイパスに抜ける。
遠くにルートイン、という全世界に何千件もあるような
ネーミングのホテルの看板が見え、
しかしその看板とは逆方向にタクシーは走る。

こういったバイパスには何でも揃っていて、
それでいて何もないような感覚をいつも受ける。

あらゆる種類のファーストフードがあり、ファミリーレストランがあり、
ネットカフェがあり、プレハブの怪しげな中古のあらゆるモノを扱う店がある。
たくさんある。しかし空虚だ。
のっぺりした四角い建物に、何かを求めて入るには
時間が足りなさすぎる。

やがてバイパスを抜けて少しすると
言うだけで恥ずかしくなるような名前のホテルが見えてくる。
誰かに頼んだところここのホテルを予約してくれたのだ。

おおきに、おおきに、ありがとね 
と4回くらい言われてタクシーを降り、
ホテルに入るとフロントには身なりのぱりっとした
初老の男性が立っている。対応もぱりっとしている。

ロビーには古く、それでいて趣のある文学書が複数置いてある。
もしかしたらこのホテルは悪くないのかも知れない。
名前だけ、誰か間違ったセンスで付けてしまったのかも知れない。

そう思いながら3Fまでエレベーターで上がり部屋に入ると
またタバコの臭いだ。

私は昼間もタバコの臭いに耐えたというのに、またこれである。
他人に頼むとろくな事がない。
いつもの通り温水のシャワーを出しっぱなしにしてしばらく待つ。

部屋の空気が湿度と熱気で半分くらいに分かれてから
窓を開ける。空気が入れ替わる。しかし宿命的にこびりついた
タバコの臭いは疲れ切った頭を少しずつ圧迫する。
どうせなかなか眠れない。

こういったホテルのバスルームは驚くほど似ていて
デジャビュに悩まされる事になる。
しかしタオルだけはぱりっとしていて悪くない。

私は昼間現場で凍えながら仕事していたせいで
体中の節々が痛んだ。マッサージを頼みたかった。
しかしそんなものは午前1時には終わってしまっている。

そして空も見ずにまた眠る。
いずれにしたって、窓を開けても空なんか見えやしない。
繰り返しだ。

through my head スルーマイヘッド

金曜の夜なんとなく明らかに
別の曜日とは違う解放感に包まれた
人たち

の間を文字通り縫うように、
ゾンビのように無感覚で
機械のように無表情に歩く

何か感じるには疲れすぎているし
何か表情を作るには緊張が続きすぎている

最近じゃあロボットだって、
ソフトウェアだってもっと表情を
それなりになら
持ってる

重要と思わないものごとは僕の頭の中をどんどんただ通過していき
後にはそれらしい輪郭しか残さない

重要と思わないものごとが
そこでは重要だったりする

意味ない、と思う
かといって僕ルールが通じると思うほど
子供でもない

ただ昨日重要だったことが
今日はもう意味合いを無くしていたりすると
なんだやっぱりか。

惰性

危険なのは
全ての物事が輪郭化しだして来ている、ということだ。

鐘と共に忘却、というタイトルのアンダーWorldの新譜さえも

きいている感覚よりもただ
通り過ぎて行く感覚の方が強い

頭痛だけが常に
確かな感覚として僕をつつむ

依然として視界は悪く
光は乱反射しているけど

その先には暖かそうな
家々の明かりがその存在を
そこにあるべきあたたかさを
期待させてくれる

knock ノック

真夜中の2時半
僕は眠りに落ちる手間で
いろいろな事を考えていた

概ねそれらは意味がなかったし
僕は僕自身がまもなく深い
眠りに入ることがわかっていた

ノックはその瞬間背後から聞こえた
コンコン、

僕はリビングに背中を向けて横になっていて
リビングとの仕切りは取り払っていたから
そんなところでノックが出来ないことはわかっていた

一気にまどろみから覚醒した
ぞわりとする感覚が僕を覆う

しかしノックはその一回だけで
僕は抗いがたい眠りに引き戻された

seal シール

僕はその小さな悪魔をパシュッという音を立てて
アイロンに封印した

申し訳ないけれど、そのようにしてこのアイロン工場では
月に何台か悪魔が入ったアイロンが出荷される。

僕はもちろんアイロンは別のメーカーを買うようにしている。
なんていうか、出てくると困るし
出荷されたうちの、入っていないアイロンを見分けるのは
不可能だったからだ。