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A5 005 土曜日A5ノート5

本屋に入っていつも通り文庫のコーナーに行くと制服の学校帰りの高校生らしき少年3人が立ち読みしている。さえない風貌だが文庫を立ち読みしている高校生なんてめずらしい。将来有望。そう言えば会社の飲み会で同い年の新人と本の話をしていたら正面にいたこれまた2年目くらいの応援に来ていた設計者が本なんて僕全然読まないです。攻略本くらいです。と言ったので「いや、本は絶対読んだ方がいい。本は人間の基本だよ」みたいな事を酔っぱらいながら話した。お薦めの本でも紹介すれば良かったかと思いつつ文章が村上龍的に読点が無くだらだらしている感覚がある。

 買う本を決めかねて歩いていると、この前読んだ直木賞作家のコーナーがこじんまりとしていてそこから1冊、2年前くらいに芥川賞を取った作家の新作なのかよくわからないがそれも1冊。芥川賞作家の作品は前回それほどインパクトも無くまあまあだったが、15分くらい本屋をうろうろして買いたくなる本がほとんど無い。

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A5 004 土曜日A5ノート4

飯田橋プラーノは飯田橋駅前の再開発として立ち上がった超高級マンションとテナントビルで成っていて、一度yahooニュースで記事を見かけた。その記事に寄ればマンションを購入した人達の平均年収は3000万円。たしかに数少ない50m2程度の1LDKで6000万円を超えていたような価格設定だったのでそれも頷けた。

 しかしプラーノ売れた後のリーマンショックでおそらくその価値は2/3、いやそれ以下に落ちているかも知れない。地権者であったパチンコ店が真新しい再開発地域に入っているのに加え、この不況で既に決定したテナントは1000円の散髪のチェーンQBハウスとなんと300円くらいでリゾットが食べられるサイゼリア。年収3000万円の住民には何ともアンマッチな感じが否めない。

 というような話をイタリアンレストランのオーナーと話しながら、入居が決まっているスーパー、三徳も高級バージョンが入るか庶民的バージョンが入るかが目下の話題なのだと聞く。利用する側にとっては既に駅ビルに入っている三浦屋が高級路線なので庶民バージョンを希望するが、似合わない。

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A5 003 土曜日A5ノート3

アイスコーヒーを飲みながらここまで暇な時間つぶしで考えた文章をA5ノートに書き写してみる。
考えたと言うよりはこれは単なる行動の記録であって、他の何物でもないが、単語単語は確かに選ぶという行為を行っていることは確かだ、と思いながら書いているとおおよそA5ノート1ページと半分が埋まる。

 ちょうどコーヒーも無くなったので席を立ち、シェフに挨拶する。

 お店の裏方にあるPCで連絡を受けていた内容の確認をしていると、お店のオーナーが出勤してこちらにやってくる。軽く話して、ランチメニューの掲載ページの構築をその場でhtmlをいじり、ftpにアクセスして終わらせる。

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A5 002 土曜日A5ノート2

ウエイトレスとウエイターは良くしつけられており、こまめに水が注がれる。
まわりをみると白ワインを片手にランチを楽しむ人が多い。

 続いて明太子とグリーンアスパラのリゾットが運ばれてくる。この組み合わせは家では思いつかないと思いながら円形に盛られたリゾットをA型的に食べてみようと思いつく。
 僕は血液型不明なので時々こういう思いつきを実行してみる。A型的にいくぶん几帳面に振る舞ってみよう、とか。

 リゾットの円形を満月とすれば、月が欠けていくように食べてみよう、と。明太子の辛みと食感を味わいつつ三日月分くらい食べてみてから、水を飲んで力を抜いてみる。目を閉じる。

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A5 001 土曜日A5ノート

雨の降っている土曜日の朝というのはあまり良いものではない。とても久しぶりに意識を失うレベルで寝ていると、深いところから電話が鳴っている気配で目覚める。
 土曜の朝の電話は良い知らせのわけもなく、電話を切るともう眠れなくなっている。朝早くに妻は沖縄に行ってくる、と出かけた記憶がぼんやりとよみがえってくる。沖縄は暖かくて良いだろう。

 いつも通りアンプの電源を入れてリモコンでPCを立ち上げ音楽を再生してから、ぼんやりと部屋を片付けて出かける支度をする。いつも通り寝癖はどうやっても直らないので適当なところで切り上げる。

 A5のノートとデジカメだけ持って雨の中歩いて近所のイタリアンに到着する。

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Floating transparent document and sliced dead goat 浮遊する透明な書類と吊された山羊の死体

昨日なんて夢にロシア人と切断された山羊が出てきたほどですから。

> 切断されたヤギ、とは?

ええ。
よくわからないんですが
そのロシア人がどろどろの緑色の液体の入った浴槽に入っているのがわかるんです。
それで逃げるんです。

> そしてヤギが切断される、と

いえ。
切断された山羊は複数吊されていました。
でもそれは、山羊の腹から下の部分で
山羊かどうかもわからないんです。
外は、シベリアのようでした。
氷の中に浮遊する書類が見えるんです。

> シベリア。抑留、ですか?

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dadanagashi network (fiction) だだ流しネットワーク フィクション

始業ぎりぎりで打刻し、スタンバイで落としたノートPCを復帰させるといつも通り右下のアイコンが点滅した。クリックしてポップアップしたウィンドウに大崎政志の名前。開封すると
「受かったぜ、俺」
とだけメッセージがある。まじかよ、と思う瞬間に既に俺の指は
「まじ?チーフかよ?」
とタイピングして既に大崎政志宛に送信を済ませている。思考より速く条件反射のように打ち出される文字を止める術は無い。俺も大崎もエンジニアで、タイピングする文字の量は一日に日会話する語句より遙かに多いだろう。隣だろうが向かいの席だろうが仕事の内容をメールする。メールは後から責任を問いただすことが出来るし面と向かって言いにくい仕事を振る事も容易だからだ。嫌な不思議な世の中だと思う。
開封されました、というメッセージと同時に既に大崎からのメッセージが届いている。もどかしくメッセージを開く前に
「待てよ、あんたTOEIC660じゃなかったか?」
というメッセージを送信する。外資系の民生機器を製造する我が社ではチーフエンジニアになるには今年からTOEICのスコアが700必要だった。相手が開封すると同時にこちらも先ほどのメッセージを開く。
「いや、チーフじゃない。あえて言えば先生、だな。」
意味はわからなかったが
「先生!」
と速攻メッセージを送ると
「わしかね?
わしを呼んだかね?」
というメッセージが入っている。ふざけている場合じゃあない。
「いやまて、あんたどういうことだ」
説明してくれ。この後受けた説明は俺にとって衝撃だったし、結局何も出来なかった俺の愚鈍さを全て表現しているようでもあり少なからずその後の人生を考える必要があった。

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B1_005 地下1階

B1 001 002 003 004

男は立ち話も何ですから、とも言わずに
永遠と話し続けていた。意味のない広いエレベーターと
広い廊下と高い天井を通った末に開いた扉の先にある
広さがうかがい知れない部屋の入り口あたりで
チャンバーを背にして。

私はここに立っていることが次第に苦痛になり始めていた。

「やはり、退屈でしたか?」

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B1_004 地下1階

B1 001 002 003

その部屋の広さは分かりにくかった。
複数の大型の機械が視界を遮っており、
男の背中に見えるのはチャンパーに見えた。

温度をコントロールするためか断熱材で
覆われたパイプが何本か伸びており、
液体窒素とかいわゆるそういった部類の物質が
入っているだろうボンベが見えた。

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B1_003 地下1階

同じような真っ白い空間でかろうじてわかる正面の扉をあけると、
そこに廊下があった。

左右の壁はコンクリートのむき出しで、
床はコンクリートに何らかのコーティングがしてあるような
灰色の床だ。
天井からは監視カメラがつり下がっており、LEDが不規則に明滅している。
LANケーブルが見える。

廊下は20mくらい直線で延びていて遠近法の練習をしているような
視界になっている。天井からは規則正しい間隔で蛍光灯が埋め込まれている。
天井高さは3mくらいあるだろうか。廊下の幅もそれくらいある。

私はまっすぐ進み出した。
このような広い無駄なような空間がなぜ地下に広がっているのかよくわからない。
表示は何もない。
10mくらい進むと、唐突に左側への廊下が見える。やはり10mくらいの廊下が
左手に伸びている。

T字の真ん中にいることに気づく。
ここで道が折れ曲がっていると言うことに、歩き始めたときには全く気づかない。

歩きを進めると、正面から足音が聞こえてくる。

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