「恐れていたことが起こった。これはスペースシップAIによる大量殺人行動である。」
センセーショナルな文句がメディアに掲載され、それに関して議論が巻き起こる。多数の惑星間スペースシップがそれぞれ最大出力で一様にポラリス(北極星)に向かう衝撃的な映像が流れる。その映像は早送りされ、さながら故郷に向かう渡り鳥の群れのようであった。この映像のインパクトと、SNSでは2階層でほとんどの人がこの現象の関係者にたどり着き、人類のほとんど全員が関係者となった結果などで、ありとあらゆるメディアで何が起こっているのかの討論が行われた。大多数は主にスペースシップAIの何らかの不具合を指摘しており、その中でAIが人を必要としなくなり、殺人を起こしているという意見も目立っていた。
その後、事故原因はスペースシップの自己位置推定装置に起因するとされ、議論は収束したように見えた。
合計で2000万台の巡航中のスペースシップが次々とポラリスを目指して最大加速し燃料を使い果たし、宇宙空間を漂うことになり、大規模な地球外への移民計画が頓挫したこの事故は、そのスペースシップの振る舞いから「ポラリスの悲劇」と呼ばれた。 続きを読む ポラリスの悲劇