彼は自分自身のこと、として話す。
デザイン事務所というのは基本的になんとなく魅力的だ。
かっこいいイメージがある。
デザイナーの多くは、自由に仕事を選べれば良いと
多かれ少なかれ思っているし、独立したいとも思っている。
後から思えば、というより今もそう思っているけど
転職を斡旋する企業は、そういった人たちの橋渡しをする。
ある部分はほとんど虚構によって会社イメージを良く作り上げて、
ここに行けば楽しい仕事が出来ると思う。給料も悪くない。
彼自身は独立するまでの止まり木としては居心地が
良さそうだと当然思う。
そして一部の企業は明らかに、
そういったデザイナーを駒として使用する。
最初に書いたように、場合によっては本当に
繁忙期だけアルバイトよりも安い日給で働かせ捨てる。
転職の説明時にはそれなりの月収を保証しても、
様々なからくりが用意され、例えば残業代はつかず、
時給換算してしまうとものすごく低い給料が用意されている。
そのことに試用期間を経てからわかったデザイナーは
モチベーションが下がり、やがてまた転職先を探す。
「そういうのは分かっているんだ。」
このような繰り返しによって成り立っている小さなデザイン事務所
はおそらく東京にひしめいている。
たぶん東京だけに寄らないだろうけど、
それなりに人気のある職業だし、みんな止まり木と考えているから
なんとなくそれで自分で納得してしまうんだ。
彼はそう言って口をつぐむ。
会社を興すのってどれくらい大変なんだ?
家族とか、養うべき対象が出来てしまってからだとなかなか
身動きが取りにくいように思うけど。
僕は彼に聞くが、彼は具体的な情報は持ち合わせていない。