その部屋の広さは分かりにくかった。
複数の大型の機械が視界を遮っており、
男の背中に見えるのはチャンパーに見えた。
温度をコントロールするためか断熱材で
覆われたパイプが何本か伸びており、
液体窒素とかいわゆるそういった部類の物質が
入っているだろうボンベが見えた。
男は話し始めた。
「ある業界とか、ある一定の分野における当たり前のことが
一般的には当たり前ではない、と言うことが頻繁にあります。
そしてこの当たり前の思いこみによって足下をすくわれる、
ということも珍しくない。」
エレベーターの滑車構造に関して考えを巡らせていた私は
そこにある矛盾に囚われて男の話を聞き流していた。
チャンバーが大きな音を立てて何かが切り替わる気配がした。
・・枚に下ろされた魚しか目にしていない。だからそれらが
当然のごとくまな板かあるいはシンクの上で内蔵が取り出され
鱗がはがされと言う過程があることを全く知らないまま育った
世代が子育てを行っているんです。」
いつの間にか話は魚のことになっている。
私はそもそもここに来た理由を失っていた。
続く