そのパソコンなんだけど、ネットに繋がらないの
ソファの前に置かれた高さのちょうどいいテーブルに、
白いノートパソコンが置いてあった。
無線LANの電波は順調に届いているし、新しく入れたという
対ウイルスソフトも特に悪さはしていそうに無かった。
恐ろしく動作が遅いのでいろいろ設定をいじって何度か再起動した後、
もう1台のノートパソコンも無線LANが繋がらない事がわかって、
無線LANのルータを再起動したら何事も無かったようにネットに繋がった。
サキはいつの間にかネコのように僕の隣に腰掛けていて、
ワイヤレスマウスを調節する振りをして僕の手に一度触れたけれど、
僕は結構まじめにパソコンを直していて特に反応しなかった。
そう。ふとした瞬間にサキの手が触れた感覚がよみがえり、
後になって後悔するのだ。何であの合図に気づかなかったのだろうと。
PCの調節が全て終わった頃には、サキは会社で終わりきらなかったの、
という新しいコンビニ向けスイーツの企画書をもう1台のラップトップで書いていて、
僕はいつの間にかソファで眠ってしまった。
たぶんサキはその間に、僕の携帯電話に「きみみたいにきれいな女の子」と
自分の電話番号を登録したのだろう。
たぶんそれは「きれいな女の子たちをよく家に送り届けるんだ」と
言った僕へのあてつけか、あるいはピチカート・ファイブを車の中で僕がかけていて
思いついたのかもしれなかった。悪くない。
少しだけ眠り、たぶん朝の6時ごろ目覚めると
サキはまだ企画書を書いていた。眠気がもたらす圧倒的な性欲はすでにどこかに
消えていて、僕はサキに携帯の番号を聞いたけれど全く無視され
紳士的に家を後にした。ブーン。
まだみんなが眠っている土曜日の朝の東京をオープンで走るのはなかなか気分がいい。
それにしても、もったいない事をした。また会えるといいけれど。
そう思わせる雰囲気を持った女の子だった。白いふかふかの絨毯みたいに。
まあいずれにせよ、と僕は思う。
番号を聞き出せなかったのは残念だけど、絨毯は大きな収穫だ、と。
また一歩クールに近づけたのだ。