tokyo adrift 2006 07

 サキの家は目白台にある閑静な住宅地にあった。
「父親は会社の近くにマンションを持ってて、母親は旅行中でいないの。
あとちょっとパソコンの事で聞きたい事があるからよかったら上がって」
なんと言っても僕の仕事はウェブインテグレーションという事になっているし、
パソコンのトラブルは多かれ少なかれ誰の家でも起こっているのだ。

 僕は紳士的にトラブルを解決するしおかげで彼女たちは僕を家に誘いやすくなる。
薄い緑と紫の混ざったようなタイルが敷き詰められた駐車場の
アウディとベンツの間に車を停めて、家に招かれた。

 全くもって、もともと余裕がある人間によるちょっとしたセンスをかけた、
小さなところへの贅沢っていうのはなぜこんなに違っていて素敵なんだろうと
思われるような家だった。
まずとにかく、絨毯が白くてふかふかなのだ。
実は僕はもうその時すでにかなり眠かったし、
この絨毯だったら何時間でも眠れるだろうなと思いながらリビングに行った。

 もちろんサキを抱くきっかけみたいなものに期待していたけれど、
それよりも絨毯にまず感激した。
ネコのようにその絨毯で丸くなって寝られたらどんなに幸せだろうとすら思った。

 僕はリビングのソファに座って、それから部屋を見回した。
しっかりとした作りの家具が主張しない程度に置かれており
とにかくこういうセンスを磨くべきなのだろうとはっきりと思った。
クールにアドリフトするためには。

「何か見る?」
「いや何でも構わないよ」
サキはDVDのソフトが並べられたラックから、
どこかのシュールレアリスティックな映像作品を液晶テレビで流し始めた。
主人公たちがスウェーデン語で喜劇を演じているのを2人で見るとも無く見た。

テレビは前から僕が欲しいと思っていたソニーの最新機種だった。全く。