「ええ、2分間ほどです。」
「昔水泳をやっていたんです。3kmほど、毎週。だからですかね。2分間くらいなら
大丈夫なんです。」
「ええ。ほら、指と指の間のヒレがまだ少し残っている。」
「それほど広くないのです。どういう体勢かちょっと自分ではわからないな。
とにかく、頭を底につけるんです。」
「そうですね。基本的には。閉じているので、真っ暗です。
たまに目を開けることもありますね。ただ、しみそうなので大抵は閉じています。」
「うーん、このところ、ほとんど毎日ですかね。落ち着くんです。不思議と。」
「ウィー・・・、ウィー・・・、ウィー・・・という低周波のような音が
聞こえてくるんです。最初は表面の水が波打っているのかな、
あるいは湯沸かし器の音かな、と思うんですが、そのうち気づくんです。
自分の耳に送られてくる血液の圧力で音がするんです。」
「確かに周囲の音がなぜかクリアに聞こえますね。でも大抵、何の音も
しないんです。誰もが寝ているし、もともととても静かな住宅街ですから。
本当に誰もが寝ているんです。」
「ええ心拍にあわせて。いや、でも音は、やっぱりウィー・・・ですね。
何か圧迫的な、水圧で、ですかね。」
そのようにしてこのところ僕は浴槽で1人、ダイブを行っている。