tokyo adrift 2006 04

ふと気がつくと僕は完全に1人で、女の子の気配は消えていた。
30分ほどだろうか?探した。見つからない。
女の子の影を探していると視界が良くなった。
急に風が止み、雨も小降りになった。
滲んでいた遠くの光がはっきりと届くようになった。
もしかして海に飛び込んだのかもしれないな、と思い
すっかり暗闇に慣れた目で海面を見渡したが、そこには小さな波が
繰り返されているだけでどこにも女の子の姿は見えなかった。まさかね。

 それからもう一度、周囲を歩き回ってから車へと戻った。
ぐちゃぐちゃになった靴をビニール袋に入れ、サンダルに履き替え、
全ての服を脱ぎバスタオルで体を拭いて着替える。

コーヒーを飲みながらエンジンをかけ、カーナビでこの付近の地図を呼び出した。
無人に見える島も少し歩けばコンビニもある。
突拍子も無いがまあ歩いて帰れなくも無いだろう。

 携帯をPowerBookに繋いで、衛星写真を呼び出した。
同時に東京湾のリアルタイムの潮流を調べる。
そこから万が一女の子飛び込んだ場合に流れ着く、
あるいはたどり着くであろう場所を割り出そうとしたけれど
潮流なんてほとんど無かった。飛び込んだ方向から右の人工島、
あるいはこの島にも人工海岸があり、そこにたどり着く可能性もあった。
人が入れるのかわからないが羽田空港側にも、
データ上は砂浜らしき場所が見えた。直線距離ではそれほど遠く無いし
僕でも泳げそうだった。彼女は泳げそうな格好では全く無かったけれど。
PowerBookは何も言ってくれなかった。
コンピュータが何かしらにせよ助言してくれるのはきっともっと先の未来だ。

 そのようにして僕はまだ2回しか会った事が無い、
ほとんど何も知らない女の子を見失った。僕は本当によく物を無くすのだ。
それも大切な物を。