ふと気がつくと僕は完全に1人で、女の子の気配は消えていた。
30分ほどだろうか?探した。見つからない。
女の子の影を探していると視界が良くなった。
急に風が止み、雨も小降りになった。
滲んでいた遠くの光がはっきりと届くようになった。
もしかして海に飛び込んだのかもしれないな、と思い
すっかり暗闇に慣れた目で海面を見渡したが、そこには小さな波が
繰り返されているだけでどこにも女の子の姿は見えなかった。まさかね。
それからもう一度、周囲を歩き回ってから車へと戻った。
ぐちゃぐちゃになった靴をビニール袋に入れ、サンダルに履き替え、
全ての服を脱ぎバスタオルで体を拭いて着替える。
コーヒーを飲みながらエンジンをかけ、カーナビでこの付近の地図を呼び出した。
無人に見える島も少し歩けばコンビニもある。
突拍子も無いがまあ歩いて帰れなくも無いだろう。
携帯をPowerBookに繋いで、衛星写真を呼び出した。
同時に東京湾のリアルタイムの潮流を調べる。
そこから万が一女の子飛び込んだ場合に流れ着く、
あるいはたどり着くであろう場所を割り出そうとしたけれど
潮流なんてほとんど無かった。飛び込んだ方向から右の人工島、
あるいはこの島にも人工海岸があり、そこにたどり着く可能性もあった。
人が入れるのかわからないが羽田空港側にも、
データ上は砂浜らしき場所が見えた。直線距離ではそれほど遠く無いし
僕でも泳げそうだった。彼女は泳げそうな格好では全く無かったけれど。
PowerBookは何も言ってくれなかった。
コンピュータが何かしらにせよ助言してくれるのはきっともっと先の未来だ。
そのようにして僕はまだ2回しか会った事が無い、
ほとんど何も知らない女の子を見失った。僕は本当によく物を無くすのだ。
それも大切な物を。