B1_005 地下1階

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男は立ち話も何ですから、とも言わずに
永遠と話し続けていた。意味のない広いエレベーターと
広い廊下と高い天井を通った末に開いた扉の先にある
広さがうかがい知れない部屋の入り口あたりで
チャンバーを背にして。

私はここに立っていることが次第に苦痛になり始めていた。

「やはり、退屈でしたか?」

男が私に問いかけた。

心を読まれた気分になったわけではなく、またやってしまったと思った。
私は正直なので嫌なことは嫌という感情が表情として表に出てしまうのだ。

何も言わないでいると、こちらへ
と案内される。男の背にあるチャンバーだった。

男はチャンバーの側面についている真っ黒な液晶パネルを触り、
画面が表示された。スリープモードから起動させたようだった。
画面には温度-58℃ 湿度 - と書かれている。
極端に低い温度だと湿度が測定できないのかもしれない。
男は画面に出てきたボタンをいくつか押し、暗証番号のような画面で
番号を押した後、手のひらを液晶画面に押しつけた。

大げさな音が鳴りチャンバーの中で動きがある。

まさかな、と思う。
ここまで来る間にずいぶんおかしな手順を取った。

最初に電話したのは床屋だった。
床屋は、場所がわかりにくいですので駅西口に着きましたらお電話ください
とだけ言って電話を切った。

そんなことを言っても床屋の住所は電話帳に載っていたので
私はその場所に向かった。

電話帳によればここのビルだと思われるビルは築数十年経っていると見られ、
しかし無骨な鉄格子のような、菱形に編み込まれた鉄のシャッターが
全ての入り口を閉ざしていた。1カ所だけ鉄格子がドア上になっており、
人1人が出入り出来る部分があり、開いていた。

入り込むとそこは駐車場になっている。
コンクリート向き出しの柱で区切られた駐車場は
入り口のサイズからは思いの外広く、
xx商事、xx電機といった細かい商社のような
メーカー名が書いてあるプレートの下に
同じ名前のメーカー名が書かれている
営業用の白いバンが無数に駐められている。

ふと目の前を携帯電話を片手にした女が横切り、
奥へと消えた。

私は半信半疑で女の消えた方に歩いてみて、
全く方向感覚が無いまま壁にある入り口、あるいはトイレのような
空間に向かった。

空間は果たして階段への入り口であり、
私は3階まで上がった。
様々な怪しげなテナントがあるなかで、
一番奥にその床屋はあった。

Difficult Entry、DEとあしらわれたロゴがガラスの扉に書かれている。
全く、難しい入り口?確かに。

続く