その日も彼はいつも通り23時頃にtwitterに状況を投稿した。
”今日も帰れそうにない。”
彼はその時点で、3週間前に転職したばかりだった。
まわってくる仕事はとてもオリジナリティのある代物とは言えず、
誰にでも出来るルーティンワークか、あるいは文字通り
時間と気力というマスが塗りつぶされていくだけの
本当に気の滅入るだけの面倒な作業だった。
twitterには同じようなデザイナーの女の子のつぶやきが
泡のように浮かんでいる。
”私より後に入社した子が辞めた。何か手は無かったんだろうか”
1ヶ月間の試用期間ということで、彼の日給は8000円と聞かされていた。
文句も言わず、それなりの仕事をしたつもりだった。
彼のスキルは低くはないし、センスもそれなりにある。
仕事だって遅くはない。
その3週間で家に帰れたのは土日を除けば10日しかなかった。
土日も3回出勤した。
4週間目の水曜日、彼は不採用を聞かされた。
結局センスを見せるような仕事は特に回ってこなかった。
おおよそ、そう言った内容の話を僕はベッドの上で
隣に寝ている女の子から聞いた。
僕は奇妙な既視感に囚われていた。
別の子からも同じような話を聞いていたのだ。
その子の勤めているデザイン会社は10名ほどの会社だった。
1年半勤めている間に、会社の雇われ社長と経理のおばさんを除いて、
全員が入れ替わった。
「のべ人数」にすると何人になるのかちょっと数えないと
分からないわ。とその子は話していた。
デザイナーに限ったことではないが、
人材の自転車操業というべき事態がそこでは起こっていた。
そこここで、起こっていた。