quatre quarts カトルカール

エミクロくんは今のところ無職でフラフラしているが
田園調布のお菓子教室にも通っている。
この教室はちょっとお菓子教室にしては無理があるんじゃないかと
思えるようなばか高い(と思う)月謝を取っていて、しかも
とてもばかげたピンクのエプロンを着て調理するようだ。

最初に行ってきた日にエミクロ君はそのエプロンを広げて見せた。
その色とデザインに思わず吹き出した僕がそれ本気?みたいな事を言うと

「でしょう?でもこういうのが似合う感じのお嬢様、
というかお嬢様出身だろうなって人が来てお菓子を作ってるのよ」

と説明されなるほどと納得した覚えがある。

元々ケーキに関してはとてもおいしいものを作れるエミクロくんだが
ある日家に帰るとリボンがつけられたケーキがテーブルに
置かれていた。
すでに日付は変わっていて、真っ暗な部屋の
ケーキの真上のランプだけが点灯されており

リボンがつけられたケーキ、食べ物にリボンを直接結ぶ
というちょっとした思いつかない演出で驚かされた。
その日は何でもない日だったので不思議の国のアリスの
何でもない日おめでとう的なアレなのかもしれない。

しかしエミクロくんは「何でもない日おめでとう」の歌を知らない。
ちょっと信じられない。
不思議の国のアリス=何でもない日おめでとう
なのだが。

本人によれば
「見た目も重要です」、と言ったお菓子教室の先生の言葉に従ってやってみたようだ。

良く見てみるとそのケーキは非常に綺麗な形をしていた。
何より装飾がまるで無い(リボン以外に)ので
形そのものが強調されていた。

quatrequarts.jpg

枠を取り外したときに出来たであろう逆のラウンドや
中心に向かっていく発酵した生地が作る曲線はほとんど完璧に見えた。
しかしそれを食べるにはあまりに遅い時間だったので
サランラップをかけて、冷蔵庫に入れた。

翌朝というよりも翌昼起きるとケーキは半分になっており
エミクロ君は出かけていた。

残りの半分のケーキを注意深くナイフで切って
食べてみると、かりっとした外側の皮がなんともおいしい。
その日の朝ご飯はケーキとスープになった。

カトルカール、というケーキだと言うことは後で知った。
4種類の材料を均一に使っている、というのが由来らしい。