ヘイリ芸術村に向かうバスが高速を走っている時に、
北朝鮮との国境が高速道路の側道、という場面がある。
螺旋状の鉄条網がフェンスの上にしつらえられ、
数百メートル毎に高さ3mくらいの無人の監視小屋が建てられている。
監視小屋のある部分で鉄条網は猛烈に小屋の根本に張り巡らされ、
小屋にも北側から上れないようになっている。
U2の歌うNo Line on the Horizonが世界中のラジオで流れているこの
タイミングで、遠くに見える少し小高い山にもこのフェンス+鉄条網が
地形を無視するように見える範囲全て建てられているのを見ると、
僕はまず北から、この幅1km以上くらいある川を泳ぎ切って
到着したところを想像してしまう。
フェンスは2重になっていて、とても生身の人間が乗り越えられそうにない。
ブブカみたいに棒高跳びで超えるか、
はしごを持ってきて超えるくらいか。3mくらいはある。
川岸からフェンスまで隠れられそうな場所はないし、
フェンスがとぎれているのは向こうの橋がかかっている川くらいだ。
でもたぶん、と思う。
川に潜ったとしてもその川には鉄格子がはまっていて
泳いで抜けることは出来ないんだろう。
想像は元に戻って、北側から抜けるのはさらに難しいんだろう
という事を考え出す。フェンスは3重かも知れない。
そしてよくよく考えてみれば、
北と南に住んでいた人たちは同じ民族で同じ国だったのだ。
ミサイルを発射する悪い国としか認識されていないような
気がするけど、冷戦という黒幕をずいぶん長い間忘れていた気がする。
国境と並走してバスはは15分くらい走っている。
エミクロ君は何も知らずにいつも通り眠っている。
日本っていう国は、基本的に国境を知らない。
この場所には、
どこかの写真展で見た
「国境の壁を乗り越えてアメリカに遊びに行くんだぜ」
と言って走り出して行ったメキシコ人達の姿を捕えた写真から感じる
おかしさとか、ちょっとした冒険的なわくわく感とは
全く反対の雰囲気がある。