bridge, fall, 23:30 橋, 落ちる

車は南に向かっていて妙に現実感が希薄になっている
比較的大きな、おだやかで水をたっぷりたたえている川を渡る。
橋は水面にものすごく近い。水が増えているからか、ほとんど
ミルクコーヒーのような色の川で透明度はものすごく悪い

という思考は一瞬の間に行われたもので、川を渡り切る直前、
対向車線の右車線側で、橋の手摺が無く 踊り場のようになっている場所が
存在していることに気づきそれだけが気になる。

落ちるだろうな、という思考が頭の中で響きわたり
車で水に落ちたときは水圧でドアが開きにくいことを
助手席のエミクロに伝えないとなと思う

次の瞬間、車は北に戻っている
橋に差し掛かっている
何か強い力に動かされて僕はハンドルを左に切る

そこは当然手摺のない踊り場で車は川にほぼ水平に落ちる
あるいは浸入する

水面に着くか着かないかくらいにドアをあけてベルトをはずし、
車は左を下にして沈む
となりのエミクロの手を引いて水中の車から出し水面に浮かぶ
水は体温くらいで暖かいし時々三角波が来るけどとりあえず浮かんでいる

川の中にコンクリートの中州のようなものがあり、
その付近で漁師が3人くらいやはり僕らと同じように浮かんでいる
死んだ魚の頭がいくつか上流から流れてくる気配がある
しかし実体はない

メキシコ人の漁師に
おまえら邪魔だ。お遊びで浮かんでんじゃねえ
というようなニュアンスで怒られる。

僕は でも岸に上がれないんです と言う。
勝手にそこらへんからあがれ
と言われ岸を見ると、今まで護岸されていてどこにも
登れるような場所がなかったはずなのに、
無数のハシゴが岸に向かって伸びている
高さは1mくらいだ

どのハシゴでも簡単に登れる
エミクロを先に促し、後ろからハシゴを登っていると
いつのまにか背負っていたリュックの中味を
メキシコ人に抜き取られる。

振り返るとメキシコ人はリュックのポケットから
HIKと書かれたカードを抜き取っている。
そのカードは全然訳に立たないたぶんポイントカードみたいなもので
僕はもともとそんなものいらない と思う。
メキシコ人もそう思ったのかリュックにカードをねじ込む。

陸に上がるとエミクロは誰もいない古めかしい商店街に入り
おもちゃ屋に入っていく
おもちゃ屋の奥の方で僕は、びしょぬれなので服が欲しいなと
思ったんだけど、エミクロはそういえば貯金箱を買うんだったな。
ああそういえば財布は車の中だ
と思い出す。財布、持ってくれば良かった。

「そんな余裕はなかった設定なんだ」
という曖昧な思考がどこからともなく出てきて
「設定」という言葉には気づかず、あるいは気づかないふりをして
財布を持ってくる余裕なんて無かった と思い直す。

そういえば事故の連絡をどこかにしなくては
と思っているとエミクロの携帯に警察から電話が
かかってくる。
エミクロは何か説明しているがうまくできず
電話を交代する

「あなたとエミクロさんはどういうお仕事をされているのですか?
 同じお仕事ということですが」
警官は聞いてくる。
なぜ仕事の事を聞かれるのか良く分からないまま

「私は設計をしておりましてエミクロは
デバイスの購入などをしております」といった内容を
丁寧に説明する。なぜエミクロは同じ仕事と言ったのか不思議に思う。

電話をしながら事故現場が見える橋の対岸に着き、
警察に説明しようとする。

「ブレーキの跡が無いんですが」
どうしてなんでしょうか、というニュアンスで警官が呟く

橋から川の水面までの距離は広がっており
何か工事が行われている。
埋められている。

僕は混乱した頭でブレーキを踏まなかった正当性が
どこかに隠れていないか探す。

しかしふと、自分の車が川へと落ちた場所を見ると
コンテナトレーラーのコンテナを運んでいない、前だけの
不格好なトラックが、水面まで10mほどある橋から川へ落ちていく

そこで目が覚めると、次の瞬間完全にその夢のことは忘れていた。

23:30をまわっていた。
3時間ほど眠っていたようだ。