昨日なんて夢にロシア人と切断された山羊が出てきたほどですから。
> 切断されたヤギ、とは?
ええ。
よくわからないんですが
そのロシア人がどろどろの緑色の液体の入った浴槽に入っているのがわかるんです。
それで逃げるんです。
> そしてヤギが切断される、と
いえ。
切断された山羊は複数吊されていました。
でもそれは、山羊の腹から下の部分で
山羊かどうかもわからないんです。
外は、シベリアのようでした。
氷の中に浮遊する書類が見えるんです。
> シベリア。抑留、ですか?
わかりません。
氷の中の書類もまた透明なんですが、
それを取るには氷なのか水なのか分からない程度の危険が伴うことはわかりました。
書類が積層している、のです。
> 深層心理で追い詰められている のでしょうか
わからないのです。
積層している書類はそれぞれ書類ごとに空間を保っていて、青く透明なのです
数人の仲間がいましたが、私だけがロシア人に呼ばれて宿舎というか、牛小屋のような建物に入りました。
そこに切断された山羊が数十体ぶら下がっているのです。
> ロシア人はどのような顔つきでしたか?
わかりません。
その部分は記憶から欠如しています。
ロシア人なのかどうかもはっきりしません。
しかし、凶悪犯であることはわかっています。
> どうして凶悪犯だと?
わかっているだけで、理由はわかりません
ただ精神的に殺人をいとわない人間だということだけ
分かっています
> なるほど
> そのような人間があなたを殺そうとはしなかったのですか?
わかりません。
浮遊する書類があまりに印象的だったため
私は「かっこいい」というような言葉を口にしました。
まわりの仲間はただ恐怖におののいているだけでしたが。
その発言のせいでその人物に、牛舎に招き入れられたのです。
> まわりの仲間にも、その書類は印象的に写っていたと思いますか?
> それともあなただけがそう思っていた?
その書類が重要なものだということはわかっていたと思いますが、しかし取りに行くには極寒の地で氷水に入る、致命的な事だということも同時にわかっていたのだと思います。
> そうですか。
> では、話をロシア人に戻しましょう。
> 牛舎でロシア人はあなたに何か言いましたか?
いえ。
無言で奥の方に歩いていきました。
2階だったと思います。
恐ろしく汚いところでした。
> 臭いもありましたか?
臭いには気づきませんでした。
そうですね、今初めて気づきました。
普段だったら私は臭いに敏感なのですがこのときは感じませんでした。
先生、臭いに何か意味が!?
凍てついた土地にとって臭いというものは
凍り、封じ込められてしまうのでしょうか。
> それもありますが嗅覚の麻痺です。
> 凍結した大地では人間の嗅覚が先に麻痺してしまうのです
私の夢はそこまで再現していた、ということなのでしょうか?
> いえ。今日はこれぐらいにしましょう
> これ以上はあなたには負担が大きすぎる。
> 来週の同じ時間に。いいですね?
※驚くほどかみ合わない受け答えが織りなす精神的病を
抱える青年を描写するこの作品は「不確かな私生活」で有名な
竹マット先生とinoxによるフル・リアルタイムやりとりで生まれました。