やあレイン。静かだったから、気づかなかったよ
カチャリという音とともに、レインが後ろ手で閉めたドアの向こうの
雨の音はまた聞こえなくなった。
外は冷えるだろ?暖かいココアでもどうだい?
それに眠気覚ましにもいいかもしれない。
いや、それより乾いたチョコレートは無いかな
いつものようにレインがつぶやいた。
タイムズスクエアで買ったやつがあるよ
そういって僕はいつものようにレインにチョコレートを渡した。
レインは1ブロックだけ丁寧に折って、パキっという小さな音を
満足げに聞きながら、その1ブロックだけチョコレートを食べた。
この部屋でチョコレートを食べる人は誰もいないから、
チョコレートの減った量はそのままレインの来た回数を示していた。
今日はマンハッタンの塵を、ハドソン川に流しているんだ
レインはいつもと全く同じことを僕に話した。
たいへんだろうね、実際。
僕は読んでいた本に戻る。
夜中の3時ごろ、いつのまにか静かな雨が降っている日に
現れて、いつのまにかいなくなっている。
僕は次の日の朝、レインが綺麗にした空を見て、
そういえば夜、雨が降ったのかなと思う。
ひとかけら減ったチョコレートが、机に残っていて、
それが夢でなかったことを思い出すのだ。