tokyo adrift 2006 10-end

2時間ほどそこにいただろうか。
灯台のつもりで、ハザードを点灯させながら。時折車から出て、海面を眺めながら。
雨が小降りになり止んだ後、風が猛烈に襲ってきた。

あらゆる雲はその風で遠くにかき消されたようだ。
朝日が羽田空港の左から昇り、恐ろしいほど青く綺麗な空気が
空を覆っている。東京で綺麗な空が見られるのは嵐が去った次の日の半日だけだ。

僕はあきらめてPowerBookに接続していた携帯を引き抜き、
その直後、通常回線に繋がった携帯がメールを着信した。

僕は基本的にデート中、携帯をオフにする。
たくさんの女の子と同時に付き合っている時の手段なのだ。
デート中に他の女の子からの電話もメールも届かない。

その事をサキは知っていたのかもしれない。
サキの家でも、僕は携帯を切っていたはずだから。
あるいは車に乗り込む時に僕が電源を落としたのを見ていたのかも、と思う。
僕がメールを受信するのはサキと別れた後だという事を知っていたのだから。

受信したメール。女の子の名前はサキだった。
僕はサキと何か話さなければならないし、たぶんサキもそれを求めていた。
短いメールを返信する。

いつの間にか太陽は完全に上っていて、上空を大きな音を立てて飛行機が過ぎ去った。
結局のところ、僕には待つ事くらいしか出来なくて、
横を通り過ぎる大型トラックの振動にも起きずに昼過ぎまで眠った。
何も変わらなかった。ひどく空腹だった。