tokyo adrift 2006 06

 サキはなぜかDJブースと反対方向を向いていて、
僕はその正面にいたので自然に視線が絡むようになって、
DJが適当なチルアウトをまわし始め踊りを停止してから、
サキが近づいてきても特に不自然さは無かった。

 耳元で、ねえ、その水くれない?とサキは大声で叫んだ。
僕は中で買うと1本400円もするクリスタルガイザーを壁際から持ってきたところで、
サキにペットボトルを渡してから耳元で叫んだ。
上の階のカフェでちょっと休まない?DJも変わっちゃったしさ。

僕は5年間ほど続けていたwebデザインの仕事をやめて
自分のwebを立ち上げていた。

「売れているものを売るか、ロングテールのニッチ商品を見つけ出して売るか、
どちらかなのよ。例えば私、趣味でクワガタの餌を売っているページを作っている人
知ってるけど、年間の収益は300万近いの。ページなんてもう、
本当にアクセシビリティの観点から見ればひどいものなのに、よ。」
クライアントとして会社に出入りする人間は様々な情報を落としていく。

 自動的にベストセラー商品をピックアップし、
世界中に向けて更新情報を発信し、数年間の経験で培った知識を総動員したページは
確実なアクセスによって毎月楽に生活出来るだけの収益を生み出していた。
後はプログラムが勝手に僕の生活費をさらに稼ぐのを待つだけだった。

 細かい修正は繰り返していたが、
そのようなわけで極めて暇な状態だったので、かわいい女の子がうまい事
車に乗ってくれさえすれば、家まであるいは、
僕の部屋まで送り届ける役割をこなしていた。
だからカフェではほとんど何を話したか覚えてないし、
あるいはいつも通りの事しか話していないし、
つまりサキはおなかが減っていたけれど手持ちのお金がちょっと無くて、
僕は女の子を抱きたかったとかそういう事だ。

最初はそういうつもりだったけれど、
話しているうちにこの子となら話してるだけでいいやと思っていた事だけは覚えている。