Tokyo Submarine Airport 1999-2006 05

 そこで目が覚めた。眠ってしまった、と起きた途端に思った。眠ると海に戻ってしまう。ここはどこだ?と思う。

 彼女のまだ夢の中だった。僕は彼女の心の殻を持っていて、どうやら大きくなった殻が僕を包んでいたようだった。しかし眠ってしまったおかげでその夜、僕は彼女に会えなかった。
次の夜、つまり僕が彼女の夢に入った4日目、彼女は姿を見せなかった。

 脱出可能まであと22時間00分00秒です。

 コンピューターは僕が夢から出る事の出来る、ほんの僅かな時間が始まるまでの時間を表示した。今は昼の12時、彼女に今夜出会えなければ、僕の存在は完全に望みが無くなってしまうかもしれない。

 「昨日は会えなかったね。」僕はその頃は落ち着いていて、デートをすっぽかした女の子に少し落胆した声で尋ねる男の子のように、ぽつりと言った。
 「昨日は夢を見なかったわ。ごめんなさい。夜遅くまで起きてて少しだけ寝たから。」
 「そうか。君は覚えていられない夢を見たんだよ。普段通りに。僕は寝てたから。」
 「寝てた?」彼女はとても不思議そうにつぶやいた。
 「まあいいさ。それより、ほら。」

 脱出可能まであと7時間38分47秒です。

 僕は彼女に、青色のデジタル表示が減っていくのを見せた。彼女が少し緊張した。「これは僕の持ってきたコンピューターだよ。これも君のイメージじゃない。でもここはキミの夢の中だ。キミが全てコントロールしてる。無意識のうちにね。まあそれはこのコンピューターとは関係無いよ。でもあと7時間半後、キミの夢のひずみは僕が通れるくらいまで大きくなるんだ。僕を夢から地上に出して欲しいんだ。キミが僕を連れて一緒に夢から覚めてくれればいいんだと思う。明日の午前10時10分頃。眠ってくれるかな。その頃。」僕はひどくあせっていて 、彼女の事なんかほとんど考えずに一気に言った。ひどく自分勝手だ。でも彼女はなんとかやってみるわと答えた。彼女のこんな優しさが無かったらどうなってただろうと今思う。なんで私がそんな事やらなきゃいけないの?と聞かれたって、僕はなんにも答えられなかっただろう。キミを助けるためなんだ。そんな陳腐な言葉はきっと伝わらない。表現力が無いのだ。「じゃあ、この夢から覚めたら、明日朝10時より前に寝て、起きられるように10:15分に目覚ましかけといて。でも出来たら9時ごろから寝て欲しい。誰にもじゃまされないところで。」途中で彼女が起きてしまい、もう寝られなくなってしまったら僕は消えてしまう事になる。
 「ところでさ、見渡す限り砂だらけの世界を考えた事ある?」僕は夢の中で見た世界の事を思い出して聞いた。
 「砂漠でしょ?」
 「サバク?」聞いた事の無い響きだった。
 「うん。さばく。あるわよ。現実に。でもなんで?」
 「いや、今度にしよう。じゃあよろしく。」

 脱出まであと10分ですとコンピューターが告げ、ものすごい不安で僕が壊れそうになった頃、彼女が現れた。僕は大きくなり始めたひずみのところに彼女を案内した。いままで空間のゆがみのように見えていたひずみは彼女によって水面に変えられた。僕の住む水だ。水面の下から電子音が聞こえた。目覚ましの音だった。外の世界と近くなっているのだ。「一緒に飛びこみましょう。」彼女と僕は水面に飛びこんだ。水はちょうどよい冷たさだった。すぐにあたりが黒くなり、僕はひどい眠さで気を失ったように思った。次の瞬間、僕はすごい光の中に立っていた。さっきの電子音が耳で一瞬こだまして、消えた。