Tokyo Submarine Airport 1999-2006 01

 家のまわりは車もほとんど通らなくて静かだ。ベッドの上から、重低音は効いているが小さな音で、Underworldが聞こえてくる。

 深い海の底にいるみたいだ。僕は一人、海底6000mまで降りて行く。ときおり窓から深海魚の透明な骨がライトに反射するのが見える。 例えばキミの心が様々な色のガラスを卵のような形に作りこんだものとすると、その卵には色々な殻がいくつもまわりを囲んでいる。空気みたいなものや、ゴムのようなものや、石みたいにかたいやつもある。ぐにゃぐにゃしたものもある。僕はその殻にナイフを入れて、そして手品師みたいにきれいに殻を取り出す。僕にはその殻が何なのかはわからない。ただ星のきれいな真っ暗な新月の夜、一人で海の真ん中にそっと殻を沈めに行く。殻は海のとても深いところまでゆっくりと沈む。そこで進化の途中で迷っている目の無い透明な魚たちが殻を食べる。ある魚はさらに深い海の底を目指し、(悲しみを食べたのかもしれない。)ある魚は水面を求め、そしてある魚は物思いに耽ってそこに留まる。それは大昔から繰り返されてきた事なんだ。そこには物思いに耽って進化の途中で取り残された魚たちが心の殻を待ってる。僕は殻を持って行く。

 「ゆっくり目を閉じて。キミの心の殻や魚たちが思い浮かぶかい?大丈夫。心配しなくていい。月もキミを守ってくれる。」
  僕はポケットから研ぎ澄まされた青く透明なナイフを取り出した。目の無い魚の透明な骨で出来ているのだ。

 僕は海に住む。僕の仕事は飛行機の運転手みたいなものなのだ。ほとんどの人は知らないけど、東京の海の底では今も飛行機が離発着している。乗っているのは夢。僕たちは普通昼眠り、夜、夢を運ぶ。昼間作られた夢も、運ばれるのは夜だ。夢は色々なところに運ばれて、色々なところに混じり、大抵は消えてしまう。僕は大まかな決まりさえ守ればどこに運んで行ってもいいのだ。僕にはっきりとした目的地があれば、夢は意味を持つ。その相関性については僕にもよくわからない。意味を持った夢がどんなものかもわからない。けれど、きれいな夢もあれば、格納庫に載せるだけでも怖い夢もある。でもどれも、いつかは消えて行く。夢はそういうものだし、僕は仕事をこなす。夢があまり近くにいすぎると、夢を見た人にとって意志を持った自分の影になってしまう。それは危険なのだ。僕たちは影を持たない。海の底は影を持つには暗すぎるのだ。でも地上の人々は影を持ち、夢を見る。影は僕たちに夢を渡す。僕たちはそれを遠くに持って行き、彼らの夢をほんの少し覗く。