weird (sequel) トワイライト・ストーリー

前編

靴を返した1人が下がると、
残りの2人が手を繋ぎ、ゆっくりとネコになった。
彼らはもともと手のひらくらいの大きさしかなかったので
キチンとしたネコのサイズになるまで少し時間がかかったが、
それほど長い時間というわけでもなかった。

そのネコはおおかたの捨てられた子猫と同じように、
典型的な堕落の坂を転げ落ちたタイプのネコだった。

子猫の頃は近所の子供達や大人達みんなにかわいがられていたものの、
隣の家が惰性的にエサをあげ続けた結果、エサの与えすぎで
致命的までに太り、しつけが行われなかったためかネコ的な怠惰さが
鼻につくようになり、やがて子供達からもいじめられるようになり、
ゴミ箱をあさって追い払われるような、まあそのようなネコだった。

それにしても、どうしてこんな場所にそのネコが現れたのか僕には
よくわからなかった。ネコはうちの隣の家に拾われ、時々うちの庭なんかに
現れていた。ここはうちから歩いて5分は離れているだろう。

ネコは話し始めた。その話はネコ的な何かに遮られ、非常に曖昧だった。
うちの庭について話していたかと思うと次の瞬間には朝のゴミ箱の中味について、
カラスとの攻防について話していた。おおかたは自分自身の自慢だった。
しかし結局のところ、ネコが言いたかったのはこういうことだった。

「私はあなたに以前水をかけられたり、追いかけられた事があるが
それは非常に道徳的に悪い事であなたにそんなことをする権利はない。
謝ってもらえないだろうか。」

権利がないだって?
ご存じかも知れないけれど、場合によっては、
僕は必要以上に冷たくなることも出来る。
このネコはスポイルされきっているのだ。

肝心の右足の靴は無かったけれど、僕は思いきりネコを蹴った。
渾身のインステップキックだ。
ネコは突然の行動に対応できなかったらしく、そのまま勢いよく
砂場の縁にぶつかりゲフっと声を上げた。そして分離した。

「悪いけれど、君らはこのネコの味方なんだろう?つまり。」
靴を持っていった1人に僕は問いかけた。

「私たちネコさんの味方ないし、あなたの味方ないです。」

「悪いけれど靴を返してくれないかな」

「靴、私たち食べる。」

「わかったよ。じゃあ左の靴もあげるから3人で取ってくれよ」

やれやれ。彼らを3人とも踏みつぶしてから、
僕はブランコの脇に置いてあった靴を履いて帰宅した。

僕がネコを追いかけたり、ホースを使って水をかけたりしたのは
そのネコがゴミ箱を漁っていたり、庭に糞をしたり、吐いたり、
盛りがついたときに真夜中に鳴いたりしていたからだ。
あるいはそれはネコにとっては、こちらに迷惑がかかるとは思っていなかった
行為かも知れない。

全ての物事は主体が何かによって変わってくる。
しかしこの場合、飼い主がしつけるべきだったし、ネコも自覚するべきだった。
3人も自覚するべきだった。
そして僕は3人とネコの存在を無にすることで、なんとか家に帰ることが出来たのだ。

(販売応援のメタファーとして)